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旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

≪高校教師≫


今までに紹介したアランの作品とは少し違った味の作品を
まず、取り上げたいと思います。

私のお薦め.. 五つ星マーク作品の ≪高校教師≫...です。

これは未見でしたので、じっくりと観させて頂きました。
女性を信じない、たとえ、愛したとしても
裏切れば容赦なく、制裁を与えていたこれまでのアランの
イメージからしてこの作品ではちょっと違うのです。

とことん惚れ抜く...
そして、今までに無い、過去を棄てきれなかった男を
イタリア俳優には出せない屈折した、甘い影を背負い、
絶望の中から未来をつかもうともがき悩む主人公ドミニチを
ドロン特有の芳香を放ちながら魅力的に演じてすばらしい。

そして、ヒロイン、バニーナのソニア.ベトローバもすばらしい。
フランスの女優には無い気高さ。そして情、情熱...
口に出すのも憚れるような汚い過去を持ちながらも
凛とした気高さ、決断、情...完璧に演じていている。

このふたりが画面に登場したことで
この作品はもうすでに出来上がったといってよい。

メイナール.フアーガーソンのやるせないトランペットの
メロデイーと紗をかけた霞む画面とのハーモニーは
イタリアの片田舎の風景に溶け合って
すばらしい雰囲気を醸し出している。

女性フアンにはたまらない作品でしょう。

表面の静かさの中にたぎる熱情。

アランが”男”を演じた諸作品とは全然別の魅力で、

当然のことなのですが、敢えて,女とは無縁の作品を
好んで演じ始めたころの一種のスパイス的ナ役柄でもあり、
それらの作品と交互して観て、また酔いしれてしまいました。

ストーリー

髭は伸び放題、服は着たきり雀、見るからに荒んだ生活を
しているとわかる臨時雇いの高校教師ドミニチ(ドロン)。

イタリアの片田舎である。

最初の授業で、暗い影を感じる女子生徒バニーナと
目が合ったその時、ふたりはすでに惹かれあった。

だが、街の者も、同級生たちも、バニーナを
軽蔑の目で見ている。

この歳で金持ちの息子の囲い者で、母親もその金で
養っているようだ。
町中の男たちと寝たという噂も
ドミニチの耳に入ってはきた。

しかし、バニーナは心は汚されていない。
国語の教師であるドミニチがつぶやく”詩”を
解する頭も良い生徒でもあった。

その凛とした佇まいはドミニチの心を捉えて離さなかった。

ドミニチはといえば愛の無い妻との二人暮し。
どういう経緯でそうなったか..妻の浮気とドミニチの
間には絶望の未来しかなかった。

それでも妻の帰る場所はドミニチの元しかない..
怒ってどうなるものでもない二人の間はどうしようもなかった。

ふたりを繋ぐものは絶望だとわかっている。

バニーナの愛人とは賭博の仲間でもあり、その友達、
マルチェロや、スパイダーはドミニチに好意的で、
ドミニチの愛が本物だと知って、いろいろと手を貸してくれた。

特にスパイダーはドミニチに好意以上の愛を感じているが
それは手助けをするという領域から越えなかった。

ドミニチ、バニーナのふたりは
惹かれあいながらもいろんな事情で
一度のキス以上には発展しなかった。

バニーナが町から姿を消していた間、
ドミニチは悩み苦しんだが、

バニーナの愛人が浮気をして駆け落ちをした事から、
バニーナは心を決め、ドミニチの元へ急いだ。

マルチェロの計らいで、結ばれた二人だが、
そこに逆上した愛人が戻ってきた。

それでもバニーナはみんなのまえで毅然と意思を通し、
愛人との仲を清算した。

ドミニチは妻に別れを告げに帰る。
手紙で告げろというバニーナの言葉にも、会って話すと
バニーナを姉の元へ送るべく列車で見送り、
自宅へと帰ったドミニチ。

だが、妻は一人にしないでと泣きついた。

出て行けばガス自殺をすると。

冷たく、突き放してドミニチは出て行った。

マルチェロとスパイダーに別れを告げ、バニーナの元へ
旅立とうとして、妻の一言が気になり、スパイダーに
自分が発った後に見に行くように頼んだ。

車を走らせながらも気になって仕方の無いドミニチは
自宅へ電話を入れるが受話器は外れて妻は出ない。

妻のいつもの芝居だと思いつつ気になり、
スパイダーに連絡を取る。
どうしても妻と連絡が取れず,このままバニーナの
元へ走る勇気が無い。

とうとう、ドアを叩き割っても見てくれ、
自分も後から見に帰るからと...スパイダーに電話で
言ってしまったドミニチ。

車に乗り込み、ドミニチは.....
未来を棄てざるを得ない自分に
またもや、絶望して車をUターンさせた。

バーニャのように清算出来なかったのですね。

その優しさが絶望を作ってしまったのに...

道路に出た途端..待っていたのは...

”ドミニチ館”に彼の棺があった。

イタリア名門の家系で広壮な邸宅であった。

彼の本当の身分を知るスパイダーだけが邸での葬儀に
訪れたのだった・

なんともやるせない、普段のアラン様なら
もう、振り切って新しい恋人の元に走る..
それが彼の魅力でもあるのに、
ドミニチはすべてに優しい、あの≪若者のすべて≫の
ロッコが中年になって、私の前にいたのでした。

あの訴えるような、切ないアラン様の目が忘れられない。
バニーナにくぎ付けになって見つめるアラン様の眼差し...
これから、何度も何度も観ていく作品だと思います。

恋愛ドラマ、メロドラマは数々あれど、
ストーリーは別として、

こういう雰囲気を出して香りを放つのは
アランの独壇場でしょうね。

この色気のある陰りと、香りとを、醸し出せるのはアランを
置いて他にないと思う私であります。

ジェラール.フイリップではあの、
野生のような眼差しが伝わらない。

屈折した中に愛に飢える...
真夜中のミラージュと共にやはりこんな作品も残してくれて
とっても幸せです・

そして、アランフアンならずとも
この映画は作品として秀作です。

1972年度作品  仏 伊 合作

監督/ヴァレリオ・ズルリーニ
出演/アラン・ドロン、ソニア・ペトローヴァ、
アリダ・バリ、レア・マッサリ ・レナート.サルバトーレ



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